科学者としての見方(中編)
前回 は自慰行為の悪影響と、性依存症に陥る典型的なパターンをお示ししました。オナ禁中の人には、性依存の方もいらっしゃるのではないでしょうか。私はそうです。ストレスを感じたとき、数ヶ月の期間にわたって一日に数回の自慰行為を繰り返していました。
今は後悔しています。必要以上に体力を消耗しましたし、一回の行為で得られる満足感も減りました。そのせいで、より刺激の大きなものを欲するようにもなりました。これはまずいと思いオナ禁を始めることにしたわけです。成功させるためには、欲求を上手くコントロールすることが不可欠です。そこで、まず「敵」を分析することから始めました。私はあくまでも化学専門なので、下記の分野に関してあまり深い知識はありませんが、これまで得てきた知見を元に記述します。
5.欲求
「マズローの欲求5段階」というものがあります。欲求を低級なものから高級なものへとピラミッド状に分類したものです。
(低い)
生理的欲求
安全への欲求
社会欲求(および愛の欲求)
自尊心の欲求
自己実現の欲求
(高い)
率直に申し上げますと、私はこの分類を参考程度にしか考えておりません。原著論文も読みましたが(http://psychclassics.yorku.ca/Maslow/motivation.htm)端的に言えば、①全ての欲求を網羅していないと著者自身が認めている。②実験データ(Reviewなので索引元論文までは読んでいませんが)が掲載されておらず貧弱である。③1940年代の古い論文である、という3つの理由で信用に値するものだと認識しておりません。ユングやフロイト時代の昔の心理学は当て推量甚だしく、信頼たるハードな学問として成立していないというのが、私の認識です。あくまでも「こんな分類もあるのか」と軽く考えたほうがいいと思います。
何はともあれマズローの分類は、話を単純化する上では非常に都合がいいので、広く使われています。生命が生きていく上で必要なものが低級、自己実現のような直接生命維持に因果はないものの、長期的視点で豊かな生活を送るのに必要な欲求を高級と言い換えることもできます。「衣食足りて礼節を知る」と言われるように、低級な欲求が満たされて初めて高級な欲求を求める余裕が出てくるというお話です。低級だからってバカにしてはいけないのです。
自慰行為はこの分類の中で最も低い低級な欲求に分類されます。種の存続に必要な性行為に付随する原始的な欲求と見ることができます。
この心理学の分類を生物学的な視点から捉えなおしてみましょう。
6.脳の階層構造
人間の脳は、階層構造になっています。内側のほうは全ての動物が共通して持っている脳、外側に行けば行くほど、人類の進化に伴って発達した脳ということができます。マズローの欲求分類は、脳の層構造と相関があります。脳の内側の機能(より原始的な脳)により生じる欲求が低級、脳の外側の機能(より歴史の浅い脳)により生じる欲求が高級と大雑把に語ることが可能です。
脳の最深部・基礎部分にあるのが脳幹です。意識、生命維持を司っています。進撃の巨人をご存知の方は、場所をイメージしやすいのではないでしょうか。ここが傷つけば、自律神経が制御できなくなり、絶命してしまいます。
その少し上に視床下部があります。ここでは先ほど「低級」と分類された性欲のコントロールがされています。前回のブログで記載した快楽物質β―エンドルフィンの生産工場はここになります。
一方、言語を枠組みとする論理的な思考を司るのは、脳の最も外側の大脳新皮質です。人類が他の動物と比べ大きく進化させた部分であり、この作用により、長期的な損得勘定に基づく欲求が生まれたと言えます。ただ、いくら大脳新皮質が論理的に正しいと判断したとしても、視床下部からの低級な欲求に打ち勝つのは簡単なことではありません。高級の欲求と言っても、それが優先されるとは限らないからです。生命維持の観点から見れば、高級な欲求は低級な欲求に比べて、取るに足らないとさえ言えるのです。
実は大脳新皮質が傷ついたとしても、生命維持に大きな問題は生じないことがあるのです。有名なのは、フィネアス・P.ゲージの症例でしょう。
彼は、事故により前頭葉に大きな損傷を負い、命は取り留めたものの、人格が変わってしまいました。彼の貴重な犠牲の下に今の脳科学があるので、人類に大きな貢献をした人物と言えるでしょう。
脱線しました。何はともあれ、今回のブログの要点は以下のとおりです。
- 低級な欲求(食欲・性欲など)は満たされないと生死(または種の存続)に関わる。
- 高級な欲求は満たされなくてもとりあえずなんとかなる。
だから、高級な欲求によって、低級な欲求をコントロールすることは難しいのです。禁欲は難しいのです。次回こそ、予告どおり私の考えた「欲求を上手にコントロールする方法」を書きたいと思います。
長文を読んでくださり、どうもありがとうございました。